古家物件ツアーのルール
一般社団法人全国古家再生推進協議会が主催する古家物件ツアーは、買付する際にルールがある。原則、投資プランナーでないと古家物件ツアーに参加できないのだが、一般会員参加OKとなっているエリアでは投資プランナー同様に一般会員も参加が可能だ。そして気にいった物件があれば、買付もできる。
ただしそこには優先権があって、投資プランナーと一般会員で希望物件が競合した場合は、投資プランナーが優先となる。今回参加した富山エリアの古家物件ツアーは、投資プランナーがおらず、一般会員の参加のみなので優先権の問題は発生しない。自分自身一般会員だが、買付をだそうとおもえば出せるのだ。
魅力的な町屋
さて、二件目の物件である。二件目は高岡市の町屋にちかいエリアにあった。富山市から仲介業者が来ていて、物件を案内してくれた。道路に面した間口は細いくて奥行きのながい間取りになっている。いかにもTHE町屋の佇まいだ。
物件は昭和前半の古さがあり、ノスタルジックで風情をかもしだしている。よくみると年季のはいった箪笥が階段したにおいてある。家主さんも大事につかっていたようで状態もいい。上品な親戚の家に遊びにきたような気分だ。
素人ながら、これは古家リフォームするとけっこういい雰囲気に仕上がるなとおもった。なんなら古民家風に仕上げるのもアリだとおもう。建物だけみると、今回の富山ツアーのなかではダントツによかった。
キッチン広めだが設備が古いのでそこはすべて入れ替え、トイレは和式便所なので洋式便所。お風呂はそのままでいけそうなので外壁の塗装くらい。あとオモテの応接室の屋根がベロっと剥がれているが、雨漏りとかではなさそうなどと、次々とチェックを入れていく。よくわからないけど、リフォーム代はそこそこかかりそう。
売主の考え
仲介業者は、売主さんが300万でないと売却しないと説明していた。町屋エリアに近いのも希少価値だが、昔の街並みがのこっていて、通りをあるいていてもどことなく品がある。売主側からすれば長年住んでいれば愛着も湧くし、安く買い叩かれたくないとおもうのは人情だ。
その点一件目の物件とは、売主心理がまったく異なる。おなじ高岡市といえど物件もちがえば、売主の事情もちがう。それを見極めて買付るとなれば、ある程度の相場観や売買の駆け引きが必要になる。
300万じゃ売れませんよとわたしも言ってるんですけどと、売主さんの事情を説明する仲介業者の声も熱を帯びていた。そこにはいろんな思惑が入り混じっている。腹のさぐりあいやかけひき、もしくは打算めいた感情。不動産取引の一幕を垣間みたおもいだ。
Kさん動く
──と、ここでKさんが意外な行動にでる。
Oさんに指示をだして、その場で指値を入れはじめたのである。仲介業者が売値300万だと説明しているのを無視して、けっこう低めの金額を入れている。ボールすれすれですよねそれ、いやむしろ明らかなボール球なんですけど。その金額だいじょうぶですか。売主さん怒られません? と素人ながら心配になってくる。
だがKさんはどこ吹く風だ。顔色ひとつ変わらない。なんで買付しないの? 買付通ればラッキーじゃんくらいの勢いである。
えっ、本当に買付入れていいんですか。Oさんの視線は無言でそのことを訴えているが、Kさんはカラーズバリューの名前で買付入れとけと巻くしたてている。
──すげえ強引だな。
Kさんの姿に圧倒される。
だが、ここで前述した買付ルールをおもいだしてほしい。古家物件ツアーは、たとえ一般会員であっても買付はできるのだ。一般会員OKエリアの最大のメリットはそこにあるかもしれない。ひょっとしたら今回参加した二名の一般会員は、この物件買いたいとおもっているかもしれないのだ。
が、しかし。
そんなことは関係なく、Kさんは自社で買付をすすめている。もう買うと決めている。後戻りはしない。
後日、他のエリアで古家物件ツアーに参加することになるが、その場で買付した再生士はいなかった。当然だ。いるわけがない。古家物件ツアーは投資プランナーに物件を買ってもらうための見本市だ。だとするなら投資プランナーをさしおいて、自社で買付するなんてするわけがない。そもそもそんな発想がでてこない。
でもそのときは、
──即座に買付してる。この人すげえ。
と僕はおもっている。物件を買うとはこういうものかと感心しきりである。
この時点でKさんすげえとおもいはじめているが、と同時に駐車場であったときの想いはますます強くなっていく。
──このおっちゃん何者なんだ?